映画『ロング、ロングバケーション』が切なすぎる。

映画

Amazonプライムで観た『The Leisure Seeker(邦題 ロング、ロングバケーション)』のラスト、その気持ちがわかりすぎて切なすぎます。

元文学教師でアルツハイマーの夫と末期癌の妻がキャンピングカーに乗って旅に出るお話です。
夫が好きなヘミングウェイの家を訪ねるというのが表向きの旅の目的、末期癌の妻の目的は別にありました。
それは、映画の途中、ここそこで何とはなくに示唆されます。
そんなことに何かしら違和感を感じながらも能天気な私はハッピーエンドに終わると思います。
そんな風に感じさせる場面の明るさがありました。

旅の途中、キャンプ場に設置した小さなスクリーンで、家族の思い出の写真をカタカタと繰りながら観るスライド。
若かりし頃の夫婦と幼い2人の子どもの姿。
懐かしい写真の数々にアルツハイマーの夫は思い出さなくてもいいことを思い出します。
隣人との浮気です。
そんなものは誰にも言わず、お墓まで持って行くべきなのです。
アルツハイマーの夫はこともあろうに、妻をその隣人と誤認します。
アルツハイマーあるあるです。
妻はその隣人になりすまし、浮気の期間を探ります。
シュールすぎます。

こんな感じで、ときどき、ぷぷっとなりながらお話は進んでいきます。

だいたいからして、自分の妻のこともわからないようになったアルツハイマーの人がキャンピングカーを運転してもいいのでしょうか?
いや、できるのでしょうか?

私は思い出します。
アルツハイマーである我が義母のことを。
すでにアルツハイマーを発症していたであろうとき、免許の更新を無事に終えていた義母です。
その免許更新の数ヶ月後、家に帰れなくなった義母は警察に泊めてもらいます。
そんなてんやわんやのアレコレを思い出しました。

あの日、義母は義父のお見舞いに行って行方をくらましました。
あれだけ義母を置いて検査入院はするなと言った私たちの意見をスルーした義父です。
結局、義母はかなりの距離を歩いて自分の実家のあった山の中を彷徨っているところを保護されます。
捜索願いを出していたため、我が家に電話が入ります。
保護されたときに義母が名乗ったのは旧姓だったようです。
警察官には「今すぐ迎えに来い」と言われます。
22時を回っています。
「私たちは大阪なので、無理です。明日の朝イチの新幹線に乗って迎えに行きます」
「警察はホテルや宿泊所やない、認知症をほっておくからこんなことになる」と言われます。
「いや、認知症の診断はまだ受けてません。これから病院に連れて行かなあかんとやっさもっさしてたときなんです」とさんざん、警察官のおっちゃんに嫌味を言われながらも、「そこをなんとか」と、泊めてもらいます。

翌朝、朝イチの新幹線で迎えに行きました。
警察署に着きます。
警察官に連れて来られた義母のお口のはたにご飯粒がひとつ、ついていたのを私ははっきり覚えています。
私たちを見た義母は開口一番に言います。
「今日、退院なんじゃ、迎えに来てくれたんか。ここの看護婦さん、みな、優しくてええ人ばっかりじゃ」と非常にご機嫌です。
その言葉を聞いた瞬間、私は確信しました。
義母は紛れもなく認知症だと。
青い制服の警察官が看護婦さんに見える義母です。
そして、「朝ごはん、美味しかった」とご満悦でした。

映画の中で自分の妻を浮気相手と思う場面でも私は思い出します。
義父のことを強盗だと思い「夫の通帳を勝手に触るな、強盗!強盗!」と義父に向かって叫んだ義母。
義母のことを認知症だと認めていない義父は家の中に強盗がいてると思い、パトカーを何台も呼び近所で大騒ぎになったことがあります。
義父からの電話でそれを知ります。
家に強盗がいてたのでパトカーを呼んだと。
義父が強盗に見える妄想には義母の中ではそれなりの理由があるのですが、強盗騒ぎは何度も繰り返されたようです。
のちのち、ご近所さんにこんなこともあったと聞かされます。
ご近所さんにはかなりご迷惑をおかけしました。

映画では夫がアルツハイマーで妻は末期癌です。
妻は自分が去ったあとの夫と夫の面倒をみることになる子ども(娘と息子)のことを考えます。
そして、この旅の目的を果たします。
それは夫婦2人で長い長い休暇へと向かう旅立ちです。
妻(母親)が残した手紙には子どもを思う母親、アルツハイマーの夫を残して先に死ねない妻の切実な思いが綴られています。
アルツハイマーの夫の面倒を自分が看れるならまだしも、こんなしんどいことを子どもにはさせられないという母親の気持ちです。

ラストは本当に切ないのですが、映画全体の雰囲気が全くそんな暗さを感じさせず、観終わったあと、切ないけれど心がしんどくなることはありませんでした。
主役の2人の演技なのか、演出なのか、わかりませんが切ないけれど納得してしまう結末でした。

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