木曜日、定例の義父母ホームの日。
寒かろうが義父母ホームの日。
先週はベッドから出てこず、ときどき、話をするだけで終わったんよな。
今日は起きてるかなぁと、ドアを開けてみた。
トイレに入ってたのか、なんだかかすかに臭う便臭。
まぁ、よかろう。
こんな施設にはありがちなこと。
「おとーさん、散歩に行かん?」と誘ってみる。
「便が出たのかようわからんで、お尻が痛いんじゃ」
「お腹やなくてお尻?」
「そうじゃ」
「それって、カタカタ便がなかなかでてこえへんで、お尻が痛くなったん感じやない?」
「いや、便が出そうで出んのんじゃ」
「ふーん、ようわからんけど、散歩中に出たら困るから、やめとく?」
「そうじゃなぁ」
こんな話をしながら義父の顔に漂う違和感。
なんかおかしい。
口元がどうもおかしい。
やたらジジィ臭い。
発する言葉がモゴモゴしている。
下の歯は見えるが上の歯がない。
一昨年、亡くなった実父とは違って、80歳を超えてもダンディさがウリの義父。
実父なら「歯、入ってへんでー」と突っ込むところやけど。
義父には言えない。
こんなスイッチ、オフオフの義父を連れての散歩はないな。
寒いし今日はええやろ、と、コタツの上の文藝春秋をパラパラとめくる。
おもろい記事があり読みふける。
しばらくして、義父が部屋を出ていった。
どこに行ったんや?と後を追いかけてみる。
ワーカーさんに預けている、自分のお菓子を取りに行ったご様子。
そこでワーカーさんに、
「おとーさん、入れ歯、入れてへんの?」の尋ねられる。
「入っとるじゃろ」と反論する義父。
いやいや、入ってへんやろ!とは、誰も突っ込まない。
歯もないことやし、柔らかめのお菓子ということで、ミニあんドーナツにする。
嬉しそうな義父と部屋に戻る。
コタツに座って、あんドーナツを口放り込んだ義父。
ここでやっと異変に気付く。
「歯、入れとらん」
(だから、さっきから言うとるやないかい(笑))
洗面に置いてある入れ歯をカポっとはめ込んだ義父。
入れ歯挿入でスイッチが入ったのか、カレンダーを見ながら宣言した。
「3月になったら帰るけんのぉ」
「えっ?帰るん?どこに帰るん?」
「帰るんじゃ!」
「そうなんや、どこに帰るん?」
「・・・・・」
帰る場所、忘れちまったのかーい。
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